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定期的に代表の想いをつづってまいります。

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【気になる言葉その11】「インクルーシブ」の波が来ている?

こんにちは、ふじたクリエイトスタジオ代表の藤田有貴子です。 中小企業診断士×キャリアコンサルタントという“ビジネスとキャリアの二刀流”で、VUCA/VANI 時代のもやもやをオール・インクルーシブに伴奏して実現に変える触媒を目指しています。

世にある新しい言葉をほぐして、紐解いていく気になる言葉シリーズ。
その1「BANI(バニ)」その2「エシカル(ethical)」その3「カオス(chaos)」その4「ナラティブ(narrative)」その5「伴走型支援/伴奏型支援」に続き、第6弾再び「ナラティブ(narrative)リターンズ、アゲイン?!」その7「ナッジ」その8「mixi2」その9「TAMSAMSOM」その10「PA(パブリックアフェアーズ)」

今回その11は、「インクルーシブ」についてです。暮らしのあちこちでいろいろな分野から「インクルーシブ」なことが始まっていることをお伝えしたいです。

Q1:インクルーシブとは?

最近、「インクルーシブ」という言葉を耳にする機会が増えています。「インクルーシブ」とは、直訳すれば「包括的な」という意味ですが、それだけではピンとこないかもしれません。なお、反対語は、「エクスクルーシブ(exclusive:排除的、排他的)」であり、その反対ですのですべて受け入れるという意味ととらえます。なお、「インクルーシブパッケージ」はすべて込みです、今風でいうとまるっとおまかせみたいな感じでしょうか。

実はこの言葉、組織運営や教育、健康、農業、環境、ビジネス支援など様々な分野で共通して大切にされ始めている価値観を表しています。多様な人々や資源を排除せず活かし合い、循環や共創によって持続可能な成果を目指す考え方、それが「インクルーシブ」の精神です。では具体的に、各分野ではどんなインクルーシブな取り組みが進んでいるのでしょうか?今回はその一例をご紹介します。

Q2:インクルーシブな概念とは?

組織:フォロワーシップとコーチングで共創する職場

組織の世界では、トップだけが引っ張る従来型のリーダーシップよりも、メンバー全員が力を発揮する“フォロワーシップ”が重視されつつあります。コーチングは答えはあなたの中にあるとその人にある可能性に照準をあてる考えです。

例えば高知県の小さな自動車販売会社では、社長が「競争より共創」「革新より進化」を掲げ、トップダウンではなく社員一人ひとりの主体性を尊重する経営を実践しました。社長は部下に頭ごなしの指示や叱責をせず、「任せる」姿勢を徹底します。社員が自ら気づき、考え、行動し、改善できるよう環境を整えたのです。その結果、生き生きと働く社員が増え、子育て中のワーキングマザーの女性営業スタッフも自信を持って活躍できる職場になっています。全員が意見を言い合い、互いにサポートし合うフラットな雰囲気が生まれ、この会社は全国トップクラスの顧客満足度を達成しました。リーダーとフォロワーが共創するインクルーシブな職場は、強いチームワークと持続的な成長を育んだということです。

教育:探求学習で多様な学びを共創する教室

教育の現場でも、「インクルーシブ」なアプローチが広がっています。その代表が探求学習(プロジェクト型・問い探し学習)です。教師が一方的に知識を押し付けるのではなく、生徒たち自身が興味関心に基づいて問いを立て、調べ、発表し合うスタイルの学びです。日本の文部科学省も新学習指導要領において「探求的な学習活動」を重視し、各学校での導入や実践を推奨しています。従来の科目単位の知識だけでは対応できない、複雑で答えが一つではない社会課題に対応できる能力を育むためです。

例えば、国内でも多くの学校が探求学習を取り入れています。東京都立小石川中等教育学校では、生徒たちが自主的にテーマを設定し、地域の課題や環境問題、社会課題などを調査・分析し、成果を発表しています。また、広島県の私立学校では、生徒が地元企業や地域住民と協力して地域活性化プロジェクトを企画・運営しています。これらの活動を通じて、生徒たちは自ら問いを立て、異なる視点を持つ人々と対話しながら協働して問題を解決する力を身につけています。

海外ではアメリカの公立校「ハイテックハイ」では、多様なバックグラウンドの生徒たち(低所得層の子どもが約4割)を抽選で受け入れ、協働プロジェクトを通じて全員の創造性を引き出しています。生徒たちは禁書に指定された本を題材に社会問題を調べて展示作品を作ったり、海洋プラスチックごみを題材にボートを制作したりと、ユニークなプロジェクトに没頭します。知識の暗記ではなく対話と協働を重ねることで、生徒一人ひとりの個性や強みが輝くのです。「正解」が一つではない探求学習の場は、障害の有無や得意不得意を超えて誰もが参加できるインクルーシブな教室と言えます。みんなで作り上げる学びのプロセスそのものが、生涯にわたって多様性を尊重し合う姿勢を育んでいるのでしょう。

健康:人と地球をつなぐプラネタリーヘルス

友人から聞いたのですが、医療・健康分野で注目されるインクルーシブな考え方に「プラネタリーヘルス(Planetary Health)」があるそうです。それは人間の健康と地球環境の健康を切り離せないものと捉える新しい視点です。例えばハイチで始まった「プラスチックバンク」は、環境と人々の暮らし両方に良い影響をもたらす画期的な取り組みです。地域の住民が道端や海辺のプラスチックごみを集めて持ち込むと、現金や子どもの学費と交換してもらえる仕組みで、回収されたごみはリサイクルされてグローバル企業へ再資源化として提供されます。その過程で現地ではリサイクル事業の起業家育成プログラムも行われ、金融知識の教育までセットになっているのです。この取り組みによって、町からプラスチックが減り蚊の繁殖地が解消されてコレラなどの伝染病リスクが下がる一方、住民は収入を得て子どもを学校に通わせることができます。まさに人間の健康と環境保全が両立する好循環を生み出しており、2019年には気候変動対策の国連賞も受賞しました。プラネタリーヘルスの理念のもと、気候変動や生態系の問題に医療・公衆衛生の専門家たちも協力し、地球規模で持続可能な健康づくりが進められています。「地球を包括して考える健康」というインクルーシブな視点が、次世代の医療を変えようとしているのです。

農業:不耕起栽培と資源循環で自然と共生する農法

農業の分野でも、インクルーシブな価値観が伝統的手法を見直す動きを後押ししています。

例えば不耕起栽培は土を耕さない農法で、土中の微生物や生態系を壊さず活かすことで土壌の持続力を高めます。先日、SHO FARM様という不耕地栽培をされている農場を視察する機会をいただきましたが、「土を耕さずに微生物に任せつつ本来の土に戻していく」という発想もすごいですし、雑草をできるだけぬかず緑肥として周りを覆って感想や害虫から防ぐことや、コンパニオンプランツといって違う作物を一緒に植えると分泌物で害虫が来なかったりするなど最新の手法をデザインしつつトライアンドエラーをされていました。また、周囲の事業者からの廃棄される資源を受け取って、コンポストや畑に活用するなどインクルーシブかつ既存の資源を最大限に活かした多様な取り組みをとりつつ、収益も上げているそうです。

また多様な資源循環型農法として有名な合鴨農法では、水田にアイガモ(家禽の合鴨)を放して稲作と畜産を一緒に行います。合鴨のヒナが田んぼで泳ぎ回りながら雑草や害虫を食べて育ち、糞は稲の肥料となり、水をかき混ぜて土を柔らかくするというそんな自然の営みを利用した仕組みです。化学農薬や除草剤を使わなくても、合鴨たちが雑草と害虫を減らし、稲は元気に育ちます。福岡県桂川町の古野隆雄さんは30年以上かけてこの方法を確立し、自身の田んぼで無農薬のお米と合鴨肉の両方を生産するとともに、そのノウハウを世界中に広めました。

海外でも、アメリカの再生型農業(リジェネラティブ農業)の先駆者ゲイブ・ブラウン氏が、数種のカバークロップ(被覆作物)を輪作することで荒れた土壌の有機物含有量を飛躍的に高め、農薬に頼らず収量と利益を上げることに成功しています。

いずれの事例も、多様な生きものや循環の力を活かして持続可能な農業を実現した点で共通しています。人間が自然を「支配する」のではなく、自然と共生し調和するインクルーシブな農法こそが、これからの食と農を支えていくのかもしれません。

環境:トランジションタウンが生む草の根の共創

環境分野におけるインクルーシブな取り組みの象徴が、市民発のエコムーブメント「トランジション・タウン」です。これは2006年にイギリス南部の小さな町トットネスで始まった運動で、化石燃料に依存した社会から地域ぐるみで持続可能な社会へ移行していこうという試みです。日本でも最初のトランジション・タウンは2008年に神奈川県藤野町で誕生し、以来全国各地に広がっています。藤野では有志の市民たちが集まり、地域通貨「よろづ屋」を発行して地域内経済の循環を促したり、自然エネルギーで電力を自給する「藤野電力」というプロジェクトを立ち上げたり、無農薬野菜のお百姓クラブを結成したりと、次々にユニークな活動を生み出しました。これらはすべて「こんなことをやりたい!」という誰かのアイデアと情熱に共感した仲間たちが集まって始まったものです。大事なのは専門家や行政任せにしないこと。住民一人ひとりが主役となり、やりたい人がやりたい時にやりたいだけプロジェクトに参加する、そんな緩やかなモットーが藤野の合言葉でした。

熱意さえあれば肩書きや立場に関係なく受け入れる懐の深さこそ、トランジション活動の源泉です。その結果、小さな町から生まれたアイデアが全国規模の運動に発展し、人と人、人と自然が支え合う地域コミュニティが各地に育っています。「みんなで地域の未来をつくる」というインクルーシブな精神が、環境問題への草の根からのアプローチを力強く推進しているのです。

私は、7年ほど前「トランジションタウン」を取材したことがありました。譲り受けた古民家を廃材を入れて改装し、キッチンや居間を作っているなど、わくわくしながら創造的に取り組まれていたのが印象的でした。

事業支援:エフェクチュエーションによる共創型の創業

私のかかわる、ビジネスや起業の支援分野でも、「インクルーシブ」な考え方が注目されています。それがエフェクチュエーション(Effectuation)、日本語では「創発的アプローチ」とも呼ばれる起業理論です。従来のように綿密な計画を立ててリスクを避けるのではなく、今手元にある資源や人脈を起点に、小さく始めて走りながら軌道修正し、周囲を巻き込みつつ事業を形にしていくという発想です。例えばアメリカでレンタカー業の大手となったU-Haul社の創業期には、創業者のショーン夫妻がたった1台のトレーラーを持って旅に出て、行く先々のガソリンスタンドに「このトレーラーをお店で貸し出してみませんか?」と呼びかけました。その提案に共感したスタンド経営者たちとのゆるやかなネットワークが次第に広がり、サービス開始からわずか数ヶ月で全米の各地に30台以上のレンタルトレーラー拠点が誕生したのです。最初から大資本を投下して大型店舗網を構築するのではなく、共感したパートナーと利益をシェアする「クレイジーキルト(継ぎはぎのキルト)型」の戦略で全国展開を果たした好例と言えるでしょう。

エフェクチュエーションの理論によれば、起業家は失敗しても大きな痛手とならない範囲でどんどん実験を行い、予期せぬ出来事(レモン)も味方につけてレモネードを作るように発想を転換します。実際、日本のアパレル企業「yutori」が新ブランド創出制度「Yリーグ」で毎年多数の若手企画を走らせ、一定売上に満たなければ素早く撤退する仕組みを設けるなど、エフェクチュエーションの考え方を取り入れる例も現れています。このように多様なステークホルダーとのコラボレーションや柔軟な方向転換をいとわない手法は、まさにインクルーシブな創業支援の在り方と言えるでしょう。誰もがアイデア次第で挑戦者になれる風土を育み、失敗も含めた学びを共有することで、持続的なイノベーション創出を可能にしているのです。

Q3:「インクルーシブ」をどのように生かしていけばいいの?

インクルーシブという言葉は、一見分野ごとに意味合いが異なるようですが、その根底には共通した想いが流れているように感じます。それは、人や自然、あらゆる多様性を包み込み、お互いの力を活かし合おうという前向きな姿勢です。組織では上司も部下も一緒になって職場を良くし、教育現場では子どもたちが主体的に学び合います。健康では地球環境までも視野に入れ、農業では生態系と調和し、地域コミュニティでは誰もが主役になって未来を描く。そしてビジネスの世界でも、志を共にする仲間と新しい価値を創造していく。どの事例からも、「排除しない」「対立しない」で協働することの大切さが伝わってきます。

私たち一人ひとりがインクルーシブな視点を持つことで、社会はもっと優しく強くなっていくはずです。もちろん、すべてをインクルーシブに進めるのではなく、必要に応じてエクスクルーシブな判断を取り入れ、柔軟に対応していくことも重要でしょう。小さな気づきからでも、新しい視点やブレイクスルーが生まれれば嬉しいです。

私なりにインクルーシブに考えるためのポイントをまとめてみました。

常識にとらわれないで考えてみる

VUCAやBANIといった、明確な答えのない時代です。多くの人が地域を超えて交流できるようになり、テクノロジーも日々進化しています。これに伴い常識も刻々と変化しています。「リーダーは必ずしっかりしていないといけない」「畑は耕さなければいけない」など、当たり前とされてきたことをあえて見直すことで、新しい可能性や解決策が見えてくるかもしれません。

こっそりやりとりする

想いや仮説(こうしたら良いのではないか)を抱いたとき、誰にでもすぐに伝えることはおすすめしません。特に「案をすぐに否定したがる人」「自分の利益や支配欲に利用する人」には注意が必要です。また、組織の中で肩書が高い方やコミュニティのリーダー的立場にいる人ほど、変化を好まないこともあります。慎重に相手を選び、信頼できる方と丁寧にシェアしましょう。経験上、ある程度のエビデンスを準備し、伝え方のルートや方法など戦略を練れば、共感を得る可能性が高まります。反対するのではなく、解決することが大事だからです。同じような価値観を持つ人であれば、分野が異なっていても互いに理解し合い、良い刺激を与え合えるでしょう。それこそが地球環境と健康を包括的に考える、真のインクルーシブにつながるのだと思います。

視点を変えてみる

一つの視点に固執するのではなく、複数の視点で物事を見ることが重要です。自分が経験しないとわからないことも多いです。たとえ、気が進まないようなことでも、それが視点を変えるきっかけになることもあります。私は苦手なことが多いから、すべての人が苦手なことがあると心から思えていることが、今の仕事に役立っています。一人で視点を持つのは難しいと感じる場合は、その視点を持つ人と一緒に考えることをおすすめします。

この記事が、みなさまの気づきや一歩を踏み出すきっかけとなれば、とても嬉しいです。

お知らせ

最後にお知らせです。

①夢を叶える壁打ちワークショップ 毎月11日朝 2025/6/11(水)7:00(グループ形式/無料)

https://dreamadvance2025061107.peatix.com

②夢を進める壁打ちラウンジ(1対1/無料)毎月1のつく日に不定期

開催予定 ※Dreamgateには先行掲載、Peatixにいれていきます

ご質問やご相談やお仕事として依頼したいなどは、お問い合わせフォームよりお尋ねいただけましたら、別日程でも相談をお受けいたします。

必要な方に届きますように🍀

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